
近年、SDGsなどという言葉をよく聞くようになっていますね。
SDGsとは、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals)」という2015年のサミットで採択された国際的な標語です。
貧困や飢餓といった問題から、働きがいや経済成長、気候変動に至るまで、長期的な視野で社会を良くしていこうよという意味を持った17の目標を設定しています。
この「S」にあたる「サステナブル」には、各民間企業もこぞって対策に乗り出しており、自社の社会貢献をここぞとばかりにアピールしだしているというのが昨今の状況です。
そんな中、スニーカー業界でも大きな動きがありました。
あのアディダスがスニーカー業界の他社に先駆けてサステナブル化路線を発表。
大定番であるスタンスミスやスーパースターをリサイクルポリエステル化、つまり、合成皮革に変更すると発表したのです。
今回は、アディダスのサステナブル化の動向やその狙いを解説したうえで、実際に天然皮革から合成皮革に切り替わった、「アディダススタンスミス(プライムグリーン)」を、私物で実際に履いて履き心地をレビューしていきたいと思います。
目次
アディダスがサステナビリティ路線を突き進む理由
アディダスは、SDGsの17の目標のうち、特に環境問題に貢献するという意味で、自社の製品全て(スニーカー、衣類を含む)においてリサイクルポリエステルなどを使用した製品への入れ替えを進めています。
アディダスの発表によると、2021年末までに60%の製品を天然素材などからリサイクル素材に入れ替えていく計画で、2024年までにはすべての製品でバージンポリエステルを撤廃していく方針とのことです。
バージンポリエステルとは、工場で新たに生産された新品の未使用ポリエステルのことで、要するに、アディダスの掲げるサステナブル路線は、動物由来の天然素材を使わないというだけでなく、ポリエステルも全てリサイクル素材に入れ替えるということです。
地球環境への貢献だけじゃない?アディダスの真の思惑とは

アディダスの思惑としては、前で述べたような地球環境に貢献するという崇高な理念ももちろんありますが、それだけではなく営業的な側面も持ち合わせていると考えられます。
一つは、環境先進企業としてのブランディングです。
近年では、商品選びの際にその製品の性能やデザインだけではなく、燃費や環境にやさしいかどうかも消費者の選定基準になっているといわれています。
同じ値段、同じ性能であれば、地球にやさしい方を選ぼうという消費者が増えているのです。
また、環境保護団体などの圧力団体の活動も活発になってきており、彼らの不買運動や企業への圧力が無視できなくなってきているという点もあるでしょう。
そんな中で、「アディダスを身に着けること=地球への貢献」というブランディングが出来れば、新たな客層の獲得に繋がると踏んでいるのです。
そしてもう一つは、製品原価の低減です。
一般的に動物由来の天然皮革は、利用可能な素材になるまでに多くの手間がかかる上、一頭当たりの動物から取れる量が決まっています。つまり、価格が高くなりやすいのです。
その点、工業的に大量生産が可能な合成皮革製品は製品原価を低く抑えることができます。
もちろん、天然皮革ならではの吸湿性や通気性などの快適性能は現時点の合成皮革ではかないませんが、それも今後の技術革新の中で解決されていく可能性が高く、他社に先駆けて合成皮革への技術投資を行っておくことは、本格的なSDGsの動きが始まる前に他社に技術的な差をつけることが可能となり、先行者優位を獲得することにもつながるという判断があります。
プライムブルーとプライムグリーンの違いとは?

ちなみに、アディダスの合成皮革には「プライムブルー」と「プライムグリーン」の二つのラインが存在します。
「プライムブルー」は、環境保護団体が集めた海洋プラスチックごみをリサイクルしたポリエステルで、「プライムグリーン」はバージンポリエステルを一切使っていないポリエステル素材のことを指しています。
プライムグリーンの方が適用要件が広いため製造しやすく、スタンスミスをはじめとしたスニーカーや衣類などに幅広く用いられています。
一方、プライムブルーは海洋プラスチックごみをリサイクルした素材に限定されているため適用要件が狭く、原材料調達や品質安定化に課題があるため、プライムグリーンに比べるとリリースされている製品がまだ多くありません。
品質的には大きな違いはないので意識する必要はないですが、より環境負荷低減に貢献していそうなのはプライムブルーの方かなという程度で覚えておけばよいと思います。
プライムグリーン版スタンスミスの履き心地レビュー
さて、お待たせしました!実際の製品を履いて履き心地を確かめていきたいと思います。
使用するのは私の私物のプライムグリーン版スタンスミス。黒と白のツートンカラーのモデルです。

見た目の違い
見た目の違いは驚くほどありません。
プライムグリーンは言われなければ合成皮革とは分からないほど優れた素材になっています。
触り心地は、表面がザラッとしたキメの細かいマット加工で仕上げられており、一般的にイメージする安いツルツルの合成皮革スニーカーと比べると格段に高級感があります。
また、合成皮革は防汚性能が高く色があせづらいため、買った当初の風合いを長く保てるのもメリットです。
ただ一方で、エイジング効果は出づらく、いつまでもキレイすぎてしまうため履きこむことによる経年変化の魅力が無くなってしまうのはマイナスポイントとも言われています。
プライムグリーン版スタンスミスも例にもれず非常にきれいなスニーカーなのですが、エイジングはほとんど期待できないと思います。
私は愛着のある製品を手入れをしながら長く使うのが好きで、それも一つのサステナビリティの形なのではないかと思っている口なのですが、そう考えると、プライムグリーン版のスタンスミスは、合成皮革らしい綺麗さと防汚性能は魅力であるものの、いつまでも風合いが変わっていかないのはちょっと寂しさもありますね。
履き心地の違い
次に履き心地です。履き心地は従来品とはかなり違う印象です。
一番の違いはやはり硬さ。
天然皮革はもともと素材としてしなやかですし、購入当初は多少硬かったとしても慣れていくのも早く、徐々に柔らかくしなやかになっていき、革に適度な履き癖がついて自分の足に合っていくのですが、プライムグリーンはその点、履き癖がなかなかつきません。
また、プライムグリーン版スタンスミスは履き口がかなり硬く、歩くときにくるぶしに当たる感じがあります。
もちろん、これは足の形によって個人差のある部分ですが、以前のアディダスではほとんど感じたことがなかったので大きな違いだと思います。
合成皮革だとしても履きこんでいけば徐々に柔らかくなり慣れていくとは思いますが、天然皮革よりも履き慣れが遅いため当分痛みと付き合っていくことになりそうです。
ケアしやすさの違い
一方で良かった点も多くあります。
それは、手入れのしやすさです。
まず合成皮革のため、圧倒的に耐水性が高いです。
天然皮革だと、表面から水分を吸い込んでしまったり油分が切れてしまう可能性なども考えて、水洗いは極力控えますし、汚れだけでなく革に栄養を与えるためのオイルなども定期的に用いる必要があるため手間は圧倒的にかかります。
その点、合成皮革は水を使って洗うことができますし、オイルなどのケアも必要ありません。
また合成皮革ですので、そもそもの撥水性能が高く、防水スプレーを吹く必要もほとんどありません。
合成皮革でも完全な防水というわけではないため不安な方はスプレーをしても良いと思いますが、そもそも、防水スプレーを吹く理由というのが、水が天然皮革やナイロンに浸潤するのを防止するためなので合成皮革では基本必要はないと思われます。
ガシガシ履いて、ガシガシ洗えるという意味では、取り回しのしやすいスニーカーに生まれ変わったと言えるでしょう。
まとめ
今回は、アディダスがサステナビリティを推し進める理由を考察したうえで、高機能合成皮革プライムグリーンに生まれ変わったスタンスミスの履き心地や機能をレビューしてきました。
表面の質感や見た目は非常に本革に似ており、アディダスの研究開発の成果を感じることができます。特に表面のマットな触り心地は大変心地よく、加工のレベルの高さをうかがい知ることができます。
また、合成皮革だからこそのお手入れの楽さは魅力で、撥水性、防汚性の高さは本革製品にはなかった優れた特徴と言えます。
ただし、履き心地という意味ではやはり本革の持つ、柔軟性、通気性、吸湿性が劣るのは間違いなく、本革に比べて履き慣れるまでも時間がかかります。
そして、天然皮革と違い、エイジングしていかないという点についても好みが分かれそうです。
プライムグリーン版スタンスミスは、リサイクル素材への入れ替え自体はうまく行っているように見えますし、プロダクトとしても非常によくできていると感じましたが、こと「スタンスミス」として考えると正直少し魅力は落ちたと言わざるを得ないと思います。
ただ、その分多少価格が抑えめになっている点と、この製品を選ぶことで環境負荷を下げることに繋がるという自己効力感、合成皮革ならではの取り回しのしやすさなどを複合的に勘案すれば、十分に買うに値するスニーカーに仕上がっていると思います。
是非、地球のためにプライムグリーン版スタンスミスを手に取ってみてください。